お役立ち情報

病院も事業ポートフォリオを多層化し“経常利益”目線で考える時代へ

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

レポート概要

  • 大幅な診療報酬改定でもインフレ・賃上げを吸収できず、保険収益だけでは対応が困難。病院経営は医業利益から経常利益目線へ移行し、事業ポートフォリオの最適化が求められる。
  • 保険外収益も含め“地域共生社会”を見据えた“ウエルネス戦略”の実践が必要不可欠。
  • “産業・業界を超えたリソースのシェアリング”と“複合的な顧客価値提供”がカギとなる。医療・介護にとどまらず、観光、交通、農業など周辺産業へ事業スコープを広げる。
  • 不確実性の高い時代には、自院・自社以外をパートナーとする「共創」が重要になる。

昨年末、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しました。

【病院経営のイノベーション? “地域共生社会”を見据えた“ウエルネス戦略”】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-improvement-quality-129016/

今回はこの論点を元に、具体事例を考察してみたいと思います。

大幅なプラス改定でも追いつかないレベルのインフレ

令和8年度診療報酬改定の改定率が+3.09%となりました。30年ぶり3%台の上げ幅となります。しかし、診療報酬改定は2年に一度です。2カ年分の物価上昇や賃上げをまかなう必要があります。令和6年度の消費者物価指数は対前年比3.0%(※ⅰ)です。令和7年の1人平均賃金の改定率は4.4%(※ⅱ)です。単年(度)で物価3.0%・賃上げ4.4%であれば、2年分では複利の影響もあり6~9%程度が必要となります。30年ぶりの高い改定率でも、保険収益だけではインフレを吸収するのは難しい状況です。

こうした物価上昇・賃上げに加えて、これまでも様々なレポートでお伝えしてきたように生産年齢人口減少の「2040年問題」という日本の構造的課題も絡んできます。これらの病院経営を揺るがす「三重苦」をNotebookLMで生成すると下図のようになります。

現状維持は崩壊を意味する:病院経営を揺るがす「三重苦」

こうした背景を踏まえ、前述したレポートのように保険外収益も含めて“地域共生社会”を見据えた“ウエルネス戦略”を実践することが求められるでしょう。

保険外収益への取り組み

社会医療法人は病院等の業務に支障のない範囲で厚生労働省が定める収益業務を行うことが可能(※ⅲ)とされています。こうした中でさまざまな取り組みを行っている法人が増えてきています。主な収益事業は不動産業ですが、詳細は以下の弊社お役立ちレポートに詳述しています。

【医業外収益の可能性 ~社会医療法人の収益業務の傾向~】
https://nkgr.co.jp/useful/enterprise-strategy-quality-127875/

また、詳細が公表されていないので網羅的に把握することは難しいですが、MS法人を活用した取り組みはさらに多岐にわたります。たとえば、法人内にリハビリ技師がいることを活かしてフィットネスジムを経営したり、病院の管理栄養士が地元の食品メーカーと連携し、「●●病院が考えた」というネーミングの食品を共同開発したりする事例があります。

前述したレポートでもお伝えしましたが、人口減少社会の中では、“一業種一社”ではなく“一地域一社”にならざるを得ないエリアも生まれてきており、“産業や業界を超えて地域で各種リソースをシェアリング”し、かつ“複合的な顧客価値提供”を行うことがカギになると思います。医療・介護を軸とした地域包括ケアシステムだけでなく、観光や公共交通、農業など周辺産業まで事業のスコープを広げることが大事になります。その概念を先ほどと同様にAIで整理すると下図のようになります。

今、病院経営に求められる新たな視座:地域共生社会の実現

また、イノベーションは「新結合(※ⅳ)」と表現されますが、“既知×既知=新結合”により新たな価値を創出することを指します。つまり、複合的な顧客価値提供を行うには、“医療×交通、医療×観光、医療×農業などの掛け算”が重要になります。その概念を同様にAIで整理すると下図のようになります。

収益構造の多様化:「治療(Cure)」から「地域ウエルネス(Wellness)」へ

財務的には医業利益目線から経常利益目線へ

こうした保険外収益に取り組んでいる経営者とお話しさせていただくと「医業利益ベースでは赤字でも経常利益で黒字になれば良い」という話をお聞きすることがあります。私も同感です。保険収益と保険外収益のポートフォリオを組み、その事業ポートフォリオの最適化を図る意思決定をすることこそ“経営戦略”であり、経営者の役割なのだと思います。

VUCAやBANIで表現される不確実性が高い内外環境では、事業ポートフォリオを多層化し、適切にマネジメントすることが重要です。以前、弊社お役立ち情報で下記レポートを公開しましたが、PPM(※ⅴ)はその際に有益なフレームワークです。

【“7S”で考える病院経営のトップ方針 ~“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-114485/

上記レポートでPPMについて詳述しましたが、PPMは法人内の異なるビジネスモデルの事業ポートフォリオを整理し、“利益創出のしやすさ”“投資対象領域”を可視化するためのフレームワークです。これにより、投資判断にも活用できる実践的なファイナンスのツールとして機能します。PPMなども活用しながら、これからは“保険収益と保険外収益の事業ポートフォリオを最適化”させ、“経常利益ベースで黒字化”させていくことが求められるでしょう。病院も事業ポートフォリオを多層化し、経常利益目線で考える時代になってきています。

不確実性が高い内外環境では、自社・自院だけでの対応は難しい時代です。自社(自院)以外は皆パートナーと考え、他社(他者)の力を借り、共創することが重要になると考えます。様々なパートナーと連携し、事業を共創していくことが重要になります。2026年は今まで以上に他者(社)との共創が求められるでしょう。

なお、弊社ではこのように事業ポートフォリオの多層化やグループ病院化を支援しています。皆様との共創を通じてお役に立てれば幸いです。ご関心がございましたら、下記よりお気軽にご相談ください。

グループ病院・事業多層化問い合わせページ
グループ戦略策定ご案内資料

 Q&A 例

Q:これからの病院経営は保険外収益も見据えるべきですか?
A:本文のように大幅なプラス改定でも物価上昇率や賃上げ率を踏まえると保険外収益も含めた事業ポートフォリオの多層化を図った方が安全だと思います。

Q:保険外収益ということですが、事業を多角化すれば良いのでしょうか?
A:アンゾフのマトリクス(※ⅵ)で言われるようにいきなり飛び地領域へ「多角化」するのではなく、法人のパーパスに準拠した事業から始めることが望ましいでしょう。

医師マネジメント専門サイト」もご活用ください


※ⅰ)総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年度(令和6年度)平均 (2025年4月18日公表)」

※ⅱ)厚生労働省「令和7(2025)年「賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果を公表します」

※ⅲ)厚生労働省「医療法人の業務範囲」

※ⅳ)GLOBIS学び放題×知見録「イノベーションとは?発明から価値創造へ – ビジネスに革命を起こす「新結合」の力」

※ⅴ)グロービス経営大学院 MBA用語集「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント PPM」

※ⅵ)グロービス経営大学院 MBA用語集「アンゾフの事業拡大マトリックス」


本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、2017年グロービス経営大学院MBAコース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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